現実の世界では、企業のみならず、系列・フランチャイズチェーン・ジョイントベンチャーなど、個人対個人の取引という単純なモデルを用いるワルラス流均衡経済学では説明がつかないほど、様々な形態の経済主体が市場の主役として活躍しています。各種の形態がなぜ共存しあっているか、そのような形態をとることのメリットは何か―このような疑問に明快に回答を与える「組織の経済学」の主要構成要素である「取引費用理論」、「エージェンシー理論」、「所有権理論」の3つをどの本よりも判り易く(「学部生を想定した」と著者は書いています)解説してくれるのが本書です。
これらの理論が、全てサイモンが打ち出した「限定合理性」の理論―人は新古典派経済学のいうような完全合理的ではなく人間の情報収集・処理・伝達能力は限られたものであり、従って限られた情報の中で主観的に合理的にしか振舞えない―から説き起こされており、非常にスッキリと頭へ入ります。個人的には、株主と債権が共に経営者をエージェントとして対立しあう立場にあり、それゆえそれぞれの持分(株式と借入金)割合を最適化することで、全体としてのエージェンシーコストの削減を図ることができるという本書の記述のところで、昔法学部の会社法の講義でこのような説明があれば株主、経営者、債権者3者の全体構図がすぐ飲み込めたのにと、若干悔しい気がいたします。