コンプライアンスは「社会の要請に応える」と捉えるべきであり、こと日本においては「法令遵守」という言葉で分かったつもりになるのは最も危険、というのが従来から著者の一貫した主張である。本書では検察をめぐる問題を軸に、数々の企業不祥事を例に挙げながらこの主張を明快に展開して行く。現在進行中の「検察の在り方検討会議」のメンバーでもあり、企業や官公庁の不祥事でも多くは第三者委員会のリーダーとして関わってきただけに、内容が具体的でありながら、ポイントは明確に表現されてクッキリとした像を結んでいる。かといって問題点を摘出し、提言した再発防止策を実行することでその組織がすぐに変わる、というようなきれいごとを述べているのではない。電力会社や製薬会社の事案では、不祥事が再発しているのであり、こうした事実も赤裸々に語っている。そうすることで、話に奥行きができているように感じられる。思えば社会の要請というのは、瞬間瞬間変わり続けるいわば「無常」の世界であり、これに「応える」にはいまこの瞬間に集中するしかなかろう。いま・ここに居る人たちが、目の前で起こっていることの本質を掴むべく自分のアタマをフル回転させ、周囲の経験知の助けを借りて、「ルールを作り、活かし、改める」。こうした「ルールの創造」という新たな取り組みを、本書は提案している。問題を前にして、自分のアタマで考えず、すぐにインターネットの質問サイトに投稿して答えを求めるのが日常の風景となり、大学入試の不正にも使われるご時世。日本人の多くが思考停止するのと同様、日本の組織も陥りがちな思考停止の罠、コンプライアンスの呪縛を、解くカギを得た思いがする。「著者渾身の書き下ろし」というオビの言葉は決して、大げさではない。