これほど単純なプロットとありふれた設定を用いながら、凄みさえ感じさせる哀しいラブストーリーに仕上がっています。おそらく物語は読者の予想から一歩も出ないままラストまでたどり着くでしょう。しかしそれゆえに、海を前にしたラストシーンの美しさは胸を打ちます。
極論すれば、この小説は「だれもなにもしない、どこにも進まない、なにも解決されない」物語です。それなのに、主人公とヒロインの想い、それぞれの選択は、強く胸に残ります。文章の魔力という他なく、作者の描写力にあらためて舌を巻きます。独自設定として主人公がアマチュア写真家であり、それを用いた展開もいくつかあるのですが、この作者らしく音楽もやはり重要な要素として登場します。
強くおすすめできる一冊です。静謐な終末の世界に深く没頭できることを約束します。