シングルタイトルの邦訳では6作目”緑の瞳”以来23年ぶりの新刊で、遺作になります。
彼女の初期作品は名作揃いで、美女と野獣・死刑囚との偽装結婚・奴隷に堕ちた領主の娘・男装ヒロイン・記憶喪失など、
大胆なプロットから織り成す活劇風のスピード感溢れる展開、ウイットに富んだ巧みな台詞、情景を想像させる繊細な描写で国内外のファンを魅了しました。
デビュー作の”炎と花”は保守的な70年代初頭に書かれたとは思えない程斬新で、現在作品のスタンダードになったと言われています。
”私達は皆、彼女のキャリアを借りている”というスーザン・E・フィリップスの言葉は、”ヒストリカルロマンスの女王”の名に相応しい、彼女の偉大な功績に対する賛辞と敬意でしょう。
この作品は、権力抗争が続く12世紀イングランドを舞台に、ヒロインがヒーローの愛を信じるまでを、民族の対立や陰謀などを絡めて描かれています。
過去の作品と比較すると、ボリュームは半分位で全般的に描写が浅く、構想段階のような印象を持ちました。
元々1作を完成させるのに3〜4年は要する作家さんで、闘病中に執筆されたとの事ですから、逝去により不完全のまま出版せざるを得なかったのかもしれません。
彼女の描くキャラクター像は、絶望的状況にもめげず凛と立ち向かうヒロインが垣間見せる脆さや女性らしさ、
ハンサムでチャーミングなヒーローに隠された紳士的で正義感に溢れる硬派な素顔、といった二面性が魅力的ですが、
このヒロインは猜疑心が強く頑なで、一元性を超えられませんでした。
騎士の如くヒロインを影から守り、結婚後も心が開くまで待つヒーローは献身的ですが、いつもの自信満々で堂々としたヒーローと比べると抑え気味。
そのせいか、ウッディウィス十八番のヒロインのピンチにヒーローが出現し颯爽と救出するシーンや、
ヒーローに弱みを見せまいと邪険に扱うも巧みに切り替えされてどぎまぎするヒロイン・妻を誘惑すべく悶々としたヒーローといった、
2人が惹かれ合うプロセスやいちゃつくシーンもあっさりでした。
冒頭から善人悪人がハッキリしている速い展開でどんでん返しも無いなど、ウッディウィスらしからぬ筆致で、過去の名作を熟知していらっしゃる方には違和感が大きいと思います。
もし健在だったら、別の作風に仕上がった気がしてなりません。
この作品の賛否は、何を判断基準にするかによって意見が割れると思います。
この評価にしたのは、出版社側もそれを承知している事(久々のシングルタイトルの邦訳なのに、なぜ本作を選択したのか疑問が残りますが)、幻の作品としてお蔵入りさせずファンへの最後の贈り物として読む事ができたからに他なりません。
ですから、本書だけでウッディウィスを評価されるのではなく、他の作品もお読み頂きたいです。
新訳版も数作ありますが、旧訳と比較すると直訳的で荒さが目に付くので、サンリオ版がお勧めです。
出版社は、辛口の論評があっても凹まずに、後期作品を全部邦訳して欲しいです。
彼女の作品を読めないのが一番悲しいことですから…。
個人的には特に、Petals on the River(邦題は既存作同様に直訳で)の翻訳を希望しています。