イギリスを代表する名ホラー・アンソロジストのヴァン・サールが編纂した20編収録の英国産傑作ホラー短編集です。本書の収録作家は殆どが日本では全く知られていない方々ばかりで、却って初めて読む期待が高まりフレッシュで良いと思います。そんな中で近年再紹介されて人気が復活したジョン・コリアと、変り種としてあのビートルズのジョン・レノンの遺した作品(わずか3頁の掌編ですが)が入っているのが、興趣を添える話題といえるでしょう。数ある傑作の中で、私のお気に入りの6編を紹介します。
『終わらない悪夢』ロマン・ガリ著:ナチス・ドイツの犠牲者の哀しい心情と不可解な人間の性に憐憫の情が呼び起こされ、最終行の言葉が衝撃的で忘れ難い記憶が刻まれます。『誕生パーティー』ジョン・バーク著:幼い子供達の心中にある残酷さが描かれ、その狡猾な計算高さに慄然とします。『私の小さなぼうや』エイブラハム・リドリー著:狂気に駆られた母親の妄念を描き、ラストの一行で謎が解けると同時に心身を凍らせます。『暗闇に続く道』アドービ・ジェイムズ著:殺人者と司祭と謎の美女が登場し、破滅に向かって転げ落ちていく因果応報の物語です。『私を愛して』M・S・ウォデル著:自分にしか見えない微笑を浮かべる美女に取り憑かれた男の凄惨な末路の物語です。『基地』リチャード・スタップリイ著:本書中唯一のSFホラーで、記憶を失い自分が何者かを探そうと努める男の意外な正体が焦点ですが、他にも戦時国家の非情さが生む重苦しい圧迫感が心に残ります。
本書に収録された作品はどれを取っても十分満足が得られる傑作揃いですので、貴方もぜひ身の毛もよだつ怪奇と戦慄の世界に心遊ばせ、存分に甘美な恐怖のカクテルに酔い痴れる事をお奨めします。