かつての私は、映画の「007/ジェームズ・ボンド」シリーズやTVの「0011/ナポレオン・ソロ」「スパイ大作戦」「ブルーライト作戦」「アイ・スパイ」等の大好きな少年で、イアン・フレミング原作のJ.ボンドシリーズなども耽読していたものだった。やがて、病膏肓に入るとこうした小説に飽き足りず、『ペンコフスキー機密文書』などのノンフィクションにも関心が拡がったが、その過程で長年にわたり私を悩ます(?)事件が二つあった。一つは“J.F.K暗殺事件”、もう一つは本書にも登場する“ケンブリッジ・リング(ファイブ)”の真相である。
“ケンブリッジ・リング”とは、一般にガイ・バージェス、ドナルド・マクリーン、キム・フィルビー、アンソニー・ブラントそしてジョン・ケアンクロスの5人組を指し、1920〜30年代ケンブリッジ大学に在籍中、共産主義に傾倒、その後、当時のソ連・内務人民委員部(NKVD)の“モグラ”となった外務省やMI6等のエリート達をいう。彼らの“裏切り”の実態は、当書に列記されているが、このリングにおける「5番目の男」が果たしてケアンクロスだったのか、私は今も疑念を持っている。というのも彼自身、「私は雑魚にすぎない」(第14章)と嘯いている以上に、次のような見解もあるからだ。
すなわち、ソ連亡命者達の情報では、「“第5の男”は官吏にはなったが、同時に科学者」でもあったらしく、さらに、ブラントはケアンクロスについては率直に供述したが、真の“第5の男”についてはそれほど素直に話したと思われておらず、また、フィルビーはブラントに“第5の男”が顕露していないことを漏らしていたという(C.ビンチャー『裏切りが奴らの商売』)。最後に何より問題なのは、こうした捜査を隠微に妨害し続けたオックスフォード出身の元MI5長官、ロジャー・ホリス卿(1905~73)の不可解さが、前掲書や『スパイキャッチャー』(P.ライト他)等で指摘されている。