作品の内容自体の圧倒的な素晴しさについては、多くのレビュアーの方が絶賛している通りなので、私に付け加える言葉はありません。芦屋川を中心に整然とひらけた、そして凛としたたたずまいを四季を通じて湛える芦屋、そして神戸市東灘区の山の手の街並みを愛してやまない人にとっては、必読の書と言ってよいでしょう。さて、本書を文庫版で購入する時、3分冊になっている新潮文庫版を選ぶか、1冊にまとめている中央文庫版を選ぶか、迷うところです。混雑する通勤電車で少しずつ読むしか時間がとれない人は3分冊の方を選ばざるを得ないでしょう。こちらの中央文庫版の方はさすがに解説を含めて936ページというボリュームですが、カバーは昭和21−23年刊細雪の表紙絵を採用しており、また、数は多くありませんが挿絵が挿入されていて、時代背景の雰囲気をかもし出してくれるので、本書が二度、三度と読みたくなる本であることを考えると、この中央文庫版がお薦めです。なお、市川崑監督の映画は、話を昭和13年の1年だけに限り、エピソードも順番を変えたり、削除したり等していますが、本書で描かれた日本の古き良き文化の視覚化という点で圧倒的な成功を収めており、DVDでご覧になると、益々本作品の虜になること請け合いです。