探偵が安全圏にいて頭脳で事件を解く、というタイプの安楽椅子探偵ものではありません。
そこも魅力のひとつです。
語り手の「僕」勇吾はわけありで会社をやめたデリヘル店の雇われ店長、その部屋に居候しにきた学生時代の友人、宗介は二年ほどインドにヨガ修行に行き、帰ってきたばかり。しょっちゅう奇怪なヨガポーズをとり、瞑想しています。この宗介が、勇吾の事件に手を貸す、というのが大筋です。
事件は当然ながら、勇吾の働く渋谷のデリヘル店の女の子がらみのものが多く、たとえば、雇ってもらいにきた女の子が後日、殺人事件の被害者として名前が出て、とか、客のような顔で入ってきた男が事件に巻き込まれてゆく、店の女の子の父親が北海道からどなりこんでくる、など発端は市井の小さな事件であるのですが、決してこの業界がらみの色っぽいネタを売りにするものではなく、ひじょうに細やかに謎解きが進んでゆき、広がってゆく関係者も、「僕」の目から見てですが、奥行きのある人生を背後に感じさせ、小説としてコクがあります。トリッキーではありませんが、心理の読み解きが腑に落ちるミステリです。
どの話も、宗介が謎を解いてすっきり、という終わり方をしないことが、特徴かと思います。ヨガで鍛えた俊敏な頭脳で事件を読み解くかに見える宗介ですが、犯人を断罪する方向ではなく、自分が体を張って意外な行動をしてみせることによって、犯罪を阻止したりもします。それは、悟りすましたかに見える彼も実は、家族の事件の暗い闇を背負っているからで・・・・このあたり篠田真由美の「建築探偵」の桜井京介を彷彿とさせます。
安全圏で推理を働かせるだけではいられない宗介と、見守る勇吾の、すこしクールな友情がいい味です。
もうひとつの読みどころは、ここに出てくる店の女の子たちのけなげさで、彼女らが水面下で、勇吾や宗介をしっかりサポートしてくれます。
最終話は、宗介がついに殺人者になるかもしれない、という不安に背を押されて奔走する勇吾の物語ですが、少しわりきれない解決の後味をすくうのは、彼女たちのおとなびた優しさでした。
「きれいに謎が解ければ、人生が精算されるわけではない」というハードボイルドな味をにじませつつ、異色の(安楽椅子)探偵ものとして味わい深く、また相棒どうしのふたりのバランスも、少しどきどきするものをはらんでいます。
超人でない名探偵宗介の端正なキャラクターを活かすためにも、これはぜひともシリーズ化してもらいたいと思います。