本書は、主たる部分が副題になっている判例と解説で構成され、第1部の日常や3部の学者・法曹・学生に対するメッセージ様の文章は、少なく、随筆風ではない。
故に判決文に慣れた読者でなければ、少々手こずる部分が続くと思われる。
判例としては、「印象に残る事件と判決」としてあげられた原審の判断と異なる9事件、中でもエホバの証人信者への輸血・乳房切除術・交通事故と医療事故の競合の各事件は興味深かった。
しかし、出版物として世に出す以上、読者の判断が分かれたり、疑問を呈する事件は載せたくはないとしても、7〜8割が民事とは言え、刑事事件には全く触れておらず、大いに不満が残った。
年少女子の逸失利益算定を、全労働者の賃金センサス基準とする事こそが合理性を有するものであるとしながら、それを前提としてのその後の上告申立を、最高裁として現時点でいずれか一方のみで正当なものとして判断を下すには、未だ熟していないと、不受理にした件等2事件を書いているだけでも良心的と取るべきか。
また、法科大学院を法曹養成に特化した教育・研究機関とすべし、閉ざされた既存の解釈論を絶対化すべきでない、との当然の提言が、免罪符に思えてくるのは残念。
本職については「報告書をなぞるだけで調査官にNOは言えない、60歳を過ぎた高齢者ばかりで上告されてくる年間数千件の事件の裁判資料を、15名の判事と三十数名の調査官で全て読むのは、物理的に不可能であり、報告書に頼り、50頁以上の控訴状は読まない」と漏れ聞く。
月〜金の持ち帰りがどれ程の量かは不明だが、隔週で土曜+日曜午後を費やすとあり、多量に及ぶと推察できるし、著者は民法学者であるにもかかわらず、債権譲渡担保事件において調査官の考え方と異なった為、何度も合議や別途議論を続けたが、調査官の意見に完全に従う結果となっていると書かれており、それらからも前述の言が大変信憑性を帯びる。