小冊子だが、ジェイムズの哲学のコアを伝えようと纏めた論文集。巻末の簡にして要を得た解説も良かった。ただ、やや小冊子に過ぎ、思考の流れを十分に示すほどではないと思う。嘗て「世界の名著」に「哲学の根本問題」があったが、あのぐらいの分量は欲しいところだ。しかし、「多元的宇宙論」にまで話が及んでいる包括性が、本書にはあって、小著ながら見事な編集だと思う。尤も、「多元的宇宙論」のアイデアだけは、聞こえが良い割には余り感心しないが。。。ジェイムズは1800年代前半の生まれで、欧州の哲学者に比すると、ニーチェやヴィンデルバントやブラッドレーなどと同じ世代で、その後に登場する「現代」哲学者群(フッサール、ベルクソン、リッカート、ジンメル等々)らより、一世代前だ。が、むしろ、誰よりも「現代」に近い感じがする。radical empirisim = pure experienceや持続の観念(意識の流れ)など、「二元論」に陥らない発想は、少なくとも今日の普通の日本人の感覚に近く馴染みやすいと思う。ジェイムズは、フッサール、ベルクソン、ホワイトヘッド、西田に多大な影響を与えたばかりか、夏目漱石も読んでいて影響を受けたと言われる。また、プラグマティズムの「事実上」の創始者として、デューイやミードにも影響を与えている。嘗て、西田、漱石、ミードの「意識」の扱い方に、何となく似たところがあると思っていたが、ジェイムズという同根があるのかもしれない。他方で、ジェイムズ哲学には、ヘーゲル・カントとの強固な繋がりもある。ドイツ観念論から現代哲学への分岐点としてジェイムズを位置づけする、そんな流れの哲学史があっても良いと思う。それだけの大物の割には、嘗てあった著作集は姿を消し、最大の影響力を誇る「心理学原理」の翻訳は未だにない。本書が、ジェイムズ復興の嚆矢になればよいと思ったが、後が続かないようだ。