登場する患者にはひとつの共通点がある。それは皆「純愛」のために心を患っているということだ。しかし彼らの恋愛とて特殊なものではなく、どこにでも転がっていそうな恋愛だ。風俗店で働きながらその客を愛した女性、離婚を要求する妻をいまだ愛し続ける男性、インターネットで知り合った人妻が忘れられない男性など。あえて特殊性を挙げるとすれば、彼らが一様に自分の恋愛を「純愛」と呼ぶ点だ。著者は彼らの言う「純愛」を奇妙に思い、それを「単に精神を病んだ人のみならず、今の若い人たちに広く信じられている」と感じている。「純愛時代」という題に込められているのも、この考えなのである。「純愛」という、著者にとっては奇妙な形の恋愛が、今の時代の主流になっているというのだ。
しかし本書を読んでもわからないことがある。新しい形の恋愛、著者には奇妙に思えた「純愛」。その実態とは何なのか、それが伝わってこない。彼らの「純愛」の症例を通して著者は何を訴えたいのか。「純愛」を精神病理学的に分析し警告することこそ、精神科医としての著者の役割ではないのだろうか。
本書を単なる「お話」として読むには大変おもしろい。しかし精神科医が記す精神医学の書としては物足りない。「新しい時代の、おかしな恋愛スタイル」を並べただけで終えてしまったところが、非常に残念である。(鮎村有紀)
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6 人中、5人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 3.0
「純愛」=「とびっきりの愛」?,
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レビュー対象商品: 純愛時代 (岩波新書 新赤版 (688)) (新書)
「純愛」に憧れながら、平凡な暮らしを送っている現代の若者たち。そのなかで、憧れの「純愛(とびっきりの愛)」に突き進み、現実のなかで傷つき心を病んだ若者6人の診察記。 読み始めた当初、「純愛」=「駆け引きや損得などを、一切考えない恋愛」だと勝手に解釈していたため、読んでいて、しこりの残る感があった。 あとがきによれば、「純愛」=「とびっきりの(ドラマチックな)愛」だと解釈してよさそう。 あとがきに「若者たちは愛に心底憧れていながら、他方で、とことん愛に絶望している」とあるが、当を得た言葉であると思う。愛への憧れと絶望、そのはざまで揺れ動く私たちは、どのような『愛』の形を作り上げていくのだろうか。 診察の記録がメインとなっている本だが、あとがきが面白い分、著者の分析や考察をもう少し多く、そして深く読みたかった。
6 人中、5人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 4.0
愛に病む若者たち,
By カスタマー
レビュー対象商品: 純愛時代 (岩波新書 新赤版 (688)) (新書)
この時代に不似合いなタイトルだと感じる人が多いでしょう。しかし、これはアナクロニズムの本ではありません。実は現代の若者が抱く、いびつな恋愛像に起因する様々な精神病理のケーススタディーを、分かりやすい読み物に仕立てた本なのです。愛に憧れると同時に、愛に絶望している現代の若者たちが心を病んでいく過程を精神科医の著者が解き明かしていく様子は、推理小説を読む面白さにも通じるものがあります。性があちこちで商品となり、享楽的な恋愛がはびこっているはずの現代です。それなのに、歪んだ「純愛」という呪縛が若者の心を蝕んでいるという切り口は新鮮でした。ぜひ、一読してみてください。同じ著者の「やさしさの精神病理」と「豊かさの精神病理」も合わせて推薦します。
1 人中、1人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 5.0
再読,
By hanaohanao (空襲で焼けちゃったあたり) - レビューをすべて見る
レビュー対象商品: 純愛時代 (岩波新書 新赤版 (688)) (新書)
大平健さんの著作である。この2000年に出版された本は、あくまで臨床現場から得られた”純愛”というキーワードを中心とした症例集の体裁をとっている。”純愛”といっても、ダブルコーテーション付きの純愛です。私の記憶するかぎり、まだ2000年段階では、なぜ彼が”純愛”をキーワードに新書を書いたのか、正確には誰もわからなかったように思う。すでに純愛は過去の遺物だと考えていたのに「なぜ、いまさら純愛なのか」と。少なくとも名著である『やさしさの精神病理』と『豊かさの精神病理』ほどの評価を、本書は得られなかったのではないか。しかし、その10年後(2010年)に、あらためて読み返すと、この本に書かれていた症例の特徴が、この10年間の社会変化を先取りしていたと強く感じる。もう一度読み返して、なぜ”純愛”がキーワードとなるような症例が臨床現場で散見されるようになったのか、その社会的背景に想像力を巡らせてしまいました。そろそろ、また岩波新書で類書を書いてほしいです。
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