これほど艶麗に男女間の心のやり取りを活写されると,骨を抜かれた気分になる.これは歴史と心理の両面に亘って大変な傑作である.明末-清初の武将呉三桂とその愛人陳円円の二人の行動は,他人にはどう見えようが自らの思う所に従って行動して筋の通ったものだった.作者は呉三桂に強い思い入れを以て接し,陳円円はあたかも恋敵のようである.呉三桂は明の滅亡を防ぐべく折しも北京目指して行軍中の清の摂政ドルゴンの軍の助力を求めて,逆にドルゴンの配下にされてしまう.北京では,はぐれた陳円円をドルゴンから受取る羽目になり,頭が上がらなくなる.その後清軍の名将として中華奥地を転戦するが満足できない.円円が彼を帝王の器と見ているからだ.ドルゴンの早世後,康熙帝にドルゴンの生れ変りを見たと思った彼は,叛して大周皇帝を名乗って死ぬ.円円の死は象徴的に示される.標題の紅顔は詩に歌われた美女円円を指す.なお,ドルゴンの肖像についても,作者の '海東青' よりこの作の方が生き生きしている.