中学生の「ぼく」は、学校に行けなくなってから、縄文時代の、狼を守護精霊に持つ一族の夢を見るようになった。
精霊と交わりながら暮らしていたころの記憶。一族に受け継がれていく狼の印。
彼らと同じ印が「ぼく」にもある。
夢と現実が交差し、数百年の縄文の民の変遷を、主人公が疑似体験していく、壮大なストーリー。縄文時代の生活の描写は、著者がその場で見てきたのではないかと思うくらい、細かなディティールまでリアルだ。守護精霊(コシラツキコロ)、悪い精霊(ウエンオコツコ)と、アイヌ語のルビがふられた言葉が、なんとも不思議な音感。
著者の、美しい川と釣り人を描いた『歌詠川物語』と同様に、単なる能天気な自然賛歌になっていないところがいい。現代文明と科学に対する冷静で客観的な目線に、深くうなずけるところがある。
森と人は共存できないのか。人は森を捨てて文明を選んだのか。少しずつ森から遠ざかっていく一族の年代記(クロニクル)を体験しながら、「ぼく」と一緒に、やりきれない思いを抱いた。
けれど、物語のラストで、「ぼく」が到達する、驚くべき真相を知って、やりきれない思いは一気にひっくり返った!
著者の人類の未来への愛と期待に、熱い感動を味わった。
若者にぜひ、読んでもらいたい本だ。
もちろん、壮大なスケールのエンターティメントとしても楽しめる。