心の専門職とは、まったく無縁な私ですが、本書は折に触れ、何度となく読み返しています。レヴューを書く前に、なぜなんだろう?と考えた。精神科医としての中井氏の患者に対する誠実な態度。冷静な観察眼・思考しぬかれた平易な「ことば」が、はるかなパースペクティヴ=展望、つまり希望を与えてくれていることに気がついたのです。
「そう、<時間>こそは、<医者>にも増して最古で最有力の薬であろう。他のものはすべて、その<時>を虚ろで不毛なものとしないための方策ということもできるかも知れない」。「われわれは患者に<訴える能力>があることを評価し、それを態度で示す必要があるだろう。それはまず、訴えを<聴く>ということである。ただ聴くだけでもすでに重要な意味があると思う」。「病人の心理―これも精神科に限らないことであるが―自分の苦痛を大勢の人も味わっているようなものと知りたい反面、それは自分だけに起こった特別なこととみなしたい心理が働く」。「服薬に伴う不安は精神科の場合、とくに無視できない。というのは、まさに不安の軽減こそ、薬物を処方する第一の目的だからである」。「その日一日覚えている夢は、何かの形でその人のもつ越えにくい問題を含んでいるといえそうである」。「もしも、精神科医が患者にある観念を注入しようとしたり、患者の観念を奪おうとしたり、内面を全部分かろうとしたり、患者を操ろうとしたり、幻想を抱かせようとしたり、人格的影響を与えようとしたりするのが、いくらかでも正当であるかのように思っているとしたら、それは、公衆であろうと精神科医であろうと、誤りであり、よいことであると思っているとすれば、とんでもない錯覚である」。
どの言葉も、精神科の領域を「超えて」響いてくるから不思議です!
最後に、「医者ができる最大の処方は<希望>である」。