腹の底で何を考えているかというよりも、精神科医としての反省と同僚医師たちに対する羨望や怨念が核になっている本です。どこの職場でもあんなふうにできたらいいなと模範にしたくなる人がいるものですし、逆にあの野郎絶対許せねえっと恨みのターゲットにしかならない輩がいるものです。精神科医として日頃感じているそういった羨望や怨念が随所に現れていて、読者にこんな精神科医にかかったらたいへんでっせという警鐘を鳴らしながら、ひどい目にあわされた輩に対する愚痴を書く、あるいは自分には考えられないような信頼を患者から寄せられている同僚医師を羨んで彼のやり方を描写してみる、そんな著者の素直な立場がうまく読ませるストーリーをつくっていると思います。あるドクターから「安倍公房論」なるものをみせられたが何が書かれているのかさっぱり分からず、感想を言わずに返却したところ意地悪をされたというエピソードが紹介されていましたが、著者のように読者を楽しませる文章を書ける人は、逆にペダンティックで筆力のない精神科医からは怨念を受けやすいのだろうなと、妙に納得してしまいます。ただ内容については、精神科にかかったことがある人なら皆んなうすうす知っていることばかりで、意外性がほとんどないところが残念でした。