この本の書評欄を見て、生物学的精神医学者からのヒステリックな投稿が目立ち、長文であるが故に、それを参考にするという読者の方が多いようなので、あえて臨床を大切にする立場の精神科医として、この著者を擁護したい。著者が主張するように、アメリカと比べて日本の精神医学のトレーニングがお粗末なのは否めない事実である。また一般医学と異なり、精神医学の場合は、動物ではできない研究が数多くあり、そのためインパクトファクターの高い海外の一流の精神医学の雑誌でも、臨床研究の比率が高いのである。そして、これだけ大学の医局に残る比率が高いのに、日本人の論文がほとんど一流の雑誌に載らないのも事実である。解離性障害についても、アメリカでは離人症レベルのものも含み、軽症のものも含まれることを考えると、横綱を見ていない人が解離性障害という診断をうそだと断言することもできないだろう(私も違うとは思うが、少なくとも患者を診ずに、違うと断言するような精神科医のほうが信用できない)。それ以上に、この著者を擁護したいのは、精神療法にも生物学的治療法にも偏らず、精神医療を、この分量の割には包括的に論じている点だ。もちろん発売中止(発売禁止ではない)になった薬が掲載されているのは問題であろうが(その一点だけをとって、その医者が信用できないというのもどうかと思うが――現に『今日の治療薬』にもいまだに記載されているのだ)N爺氏も評しているように、穏当な内容の精神科のガイドブックが少ない中では、生物学的精神医学の立場の精神科医からは不快な内容でも、一般の患者さんやその家族に向けてのガイドブックとしては、比較的包括的で妥当な内容と言えるだろう。