やや高めとは言え文庫本2冊で読める「精神現象学」というのは魅力。が、原典のアンチョコとしてはともかく、日本語としての理解は可能か大いに疑問だ。原文を見なければ良く分からないような翻訳に意味があるのだろうか。そうは言っても、立派な哲学者の翻訳でその偉業は素晴らしいし、直訳調(?)の文体が捨てがたい魅力もあって、私個人は、若年の頃苦労しながら読んだ深い思い出の訳書。ことに冒頭の序論とストア派から懐疑論へのくだりは、独特の雰囲気があって捨てがたい魅力がある。この味わいが名訳の長谷川宏訳よりも好ましい場合もあるのだが、しかし、やっぱりついていけるのは「理性」のところまでで、具体的な内容を扱いながら展開される「精神」の章になると、理解に限界をきたす翻訳だと思う。