とにかくおもしろい。ノーベル賞の対象となった研究「抗体の多様性生成の遺伝学的原理の解明」の内容がわかるだけでなく、さまざまな実験方法や遺伝子組み換え技術などのディテールが書き込まれているおかげで、仮説と検証を積み重ねて一歩一歩真理に近づいてゆくサイエンスの醍醐味が手に取るように伝わってくる。利根川が定説を覆す仮説をひとり確信し、文字通り世紀の大発見に至るくだりには思わず興奮してしまった。利根川の研究歴をなぞる構成で、運命的な出会いや科学者の生き方といった人間的な側面も興味深い。
ワトソン、クリックによるDNAの2重らせん構造の発見に始まった、分子レベルで生命現象を究めるという分子生物学の飛躍的な発展は、物質から生命、精神へと自然科学の方向転換をもたらした。ヒトゲノムの解読もそのひとつだ。いずれは生命現象のすべてが物質レベルで説明できるとの予測すらある。本書は利根川の偉業とともに、人類の知の歴史における一大事件である分子生物学草創期のあらましを書き留めた記念碑的名著である。(齋藤聡海)
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「大半の学者は、~どうでもいいことを追いかけて一生を終わっているわけです。サイエンティストの大半はその手のどうでもいいことを研究している人達ですよ」「なんでこれが失敗したんだろうと、考えて考え抜く。観察と考察にかける集中力ね。これが大事なんです。」
など、これを読むと、一流の科学者とはどんな人たちなのかがよくわかる。
また、立花隆の「精神現象というのは、物質的基盤を持つといえるのでしょうかね。あれは一種の幻のようなものじゃないですか」との問いかけに対して、利根川進に「その幻って何ですか。そういう訳のわからないものを持ち出されると、ぼくは理解できなくなっちゃう」と一刀両断にされ、「脳の中で起こっている現象を自然科学の方法論で研究することによって、人間の行動や精神活動を説明するのに有効な法則を導き出すことが出来ると確信しています」と断ぜられます。ここで立花隆が立派なのは、自分の偏見を指摘されたこのようなやり取りも包み隠さず文章に著しているところですね。もっとも、この対談が行われた1988年頃の認識では、一般の人にはまだまだ精神現象が不可知に思えたのも無理はないとは言えますが。
最後に一言。研究者なら「研究はオリジナルなだけではダメ。個別の些末な法則を見つけることよりも、より普遍性のある原理や法則を見つけることが重要」という利根川進の言葉は常に心するべきでしょう。
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