元々は広島の能楽師の粟谷家。とはいえ、東京で生まれ育った菊生はいかにも東京弁を話す能楽師だった。
学生の頃、何番か見ているはずだが、際立った印象はない。でも、本の中身を読んでいると楽しくなる。
能が分かる人が読めば楽しい。能を知らない人が読んでも、能ってこんなものなのか、舞台の人はこんなことを考えているのか、という発見がある。
観世寿夫、榮夫、静夫の3兄弟に煽られまくった世代。その世代がすでに老境に入り、記したものだけに、たんに師匠に教えられたままではないところが面白いのだ。
また、粟谷家の当主でなかったことも幸いしたのかもしれない。闊達な語り口には次男ならではの伸びやかさがある。
そして何より、こういう形、口調を生かした1冊にまとめ上げた子息の明生師とぺりかん社の編輯者の労を多としたい。丁寧な作り方の本です。