「粘膜」シリーズ第三弾。時代は相変わらず太平洋戦争時で、ナムール国も出て来る。主人公を務めるのは、「蜥蜴」の雪麻呂を思わせる破天荒なキャラクターを持つ麿太吉・矢太吉の双子の兄弟。ただし、雪麻呂が富豪のお坊ちゃんだったのに対し、二人は人里離れた場所で二匹の"フグリ豚"と言う黄色い特殊な豚を飼う22才の養豚業者。"ヘモやん"と言うメス豚しか愛せない奇怪な老飼育係も居る。万能薬"フグリ汁"の発明者でもある。
第一章は、兄弟の紹介がてら、二人が共に惚れた女給"ゆず子"の争奪戦を中心に、ヤクザも絡んだスラップスティック・コメディが展開される。「蜥蜴」の最終章の前半を想起させるが、ギャグがやや上滑りしている感がある。むしろ、矢太吉を時折襲うという異界の魔物「黒助」の役割が気になる。第二章は、お約束のナムール国での戦闘模様。兄弟が輸送船でナムールに運ばれるシーンで始まるが、船上で出会う聡明な少年正夫の造形が光る。また、続編を強調する意か、兄弟の隣町に雪麻呂の家がある事が示唆される。軍隊組織の狂気・不条理は前作より色濃く描かれ、反戦小説を読んでいるかの様。写実的描写力も健在で、抗日ゲリラとの戦闘シーンは緊迫感に溢れている。そして、思わぬタイミングで登場する「黒助」。何の啓示か ? 作者の一つの持ち味である"気色悪い"描写も巧みな構成で盛り込まれる。その巧みな状況設定によって更に新たな状況が...。
ゆず子やヘルビノの子供の扱いと言い、吉太郎神の霊験と言い、愛と信頼の物語との意図も感じられる。「蜥蜴」程の全体構成の妙は無いものの、「黒助」の趣向も面白く、straight forwordな痛快劇として楽しめる作品。