一力ワールドでは真っ正直で一途な思いを持つ主人公が活躍する作品が多いのだが、本作品では幾重にも人物設定に工夫が凝らされている。テレビの長寿番組「水戸黄門」が終わってしまうように、今日では単純な勧善懲悪の物語はもう流行らないのかも知れない。
現代で言えばリサイクルショップの損料屋という看板の裏で、いわば私立探偵でそのうえ正義のためには“始末”さえもためらわない特殊工作員である喜三郎のグループが本来の主人公。本作では、これまでの敵役であった札差伊勢屋四郎左衛門と互いに度胸と才能を認め合う不可思議な関係を基にひそかに手を携えて事件に立ち向かうことになる。
三話仕立てで、富くじ発行権をめぐる詐欺に絡む一話では“猫”が、二話目では“茶”がキーワードになり、札差仲間の主導権争いに絡む悪事をあばく。最終章の三話は陰影の深い“にゅうめん”にまつわる話だが、これだけで終わらずに次の物語の始まりを暗示しているようだ。
本当のワルはまだ明らかにされていないと思うが、時代は寛政の改革のとき。徳川8代将軍吉宗の孫、11代将軍と目されていた松平定信が大繁栄の田沼時代の後に、倹約を説き武士の借金を棒引きにする棄捐令をはじめとする緊縮政策により大不況に陥ったとき。
今後話がどのように広がるか、見逃せない。