この方面のニュースに触れる度に「こんな生ぬるいやりとりをしているわけはない」とは思っていたが、「やはり思ったとおり」と納得した。本書は米軍再編問題を通して、現実との矛盾が決定的になっている日米安保条約と、それに基づく在日米軍の将来について日本政府の交渉がいかに主体性を欠き、戦略に乏しく、リーダーシップもチームワークもなかったかという事実を見事に暴いている。
再編された米軍のアジア戦略はもはや日米安保条約の規定する「極東」を超え、「中国の脅威」という問題も、もはや包み隠してはおけなくなり、長期的視野に立った安全保障の視点が必要とされる現在、条文上の辻褄合わせと在日米軍基地負担の縮小に汲々とする外務省と、日米安保条約の「歯止め」もなきが如く米軍と現場同士の連携に走る防衛庁・自衛隊の主導権争いの諸側面が明らかになっている。またブッシュとの個人的な関係を誇っている割には、何ら指導力を発揮できなかった小泉総理の、さらに政治全体のビジョンや行動力のなさも、筆者の豊富な情報網によって詳らかにされている。
そして何よりも驚くのは、このような米側の具体的な提案や日米の意見交換の実態が、その負担を引き受ける地方自治体の首長ばかりか国民にも全く知らされず、官僚が情報を独占していた事実である。本書は「報道されなかった事実」を明らかにし、外務省や防衛庁に欠けていた、我々の問題を国民的な議論を経て決定しようという態度に貢献する。しかし筆者は共同通信の記者であるなら、なぜ今まで記事にして、その都度問題提起してこなかったのかという疑問も残る。
本書は、従来まで日本の文献ではあまり整理されていなかった米軍の構成や各部隊などの戦略上の位置づけなどについても概観できるという意味で貴重である。日米安保の基礎知識を勉強したい人にとっても格好の入門書と言っていいだろう。