1970〜80年代頃から米国の経済力の衰退が指摘されてきたが、現在でも衰えたとはいえ依然として超大国の地位を維持している。それはなぜであろうか。このことを対外不均衡の側面から考察した書である。
本書は長期的には持続不能に陥ると指摘されてきた米国の対外純負債がこれまで持続可能であった要因として、所得収支の黒字や対外資産・負債から生じた評価益を指摘する。利益を生み出すために対外資産と対外負債をうまく活用したことで、対外赤字持続のデメリットをうまくカバーしてきたというわけである。そして、それらを考慮すると、今後についても、ある一定水準の貿易赤字水準が続くことを想定しても、米国の対外純負債は、対外資産やGDPとの対比では、発散せずに持続可能である公算が高いことを示す。あわせて、そのなかで鍵となる貿易収支の決定メカニズムや家計のバランスシート問題についても論じる。以上を踏まえて、現行のドル基軸通貨システムが持続する可能性が高いことを主張する。
本書は、結論の妥当性や説得力に加えて、米国だけでなく日本経済の将来を考えるうえでも、大きな示唆を与えている。
第1は、フローではなくストックで考えることの重要性である。日本でも経常収支や財政赤字が議論されているが、最終的には、政府や一国全体の純資産、ないし純負債がどのように推移するかを議論しなければ説得力を欠く。フローで考える予算制約式も長期で累積して考えればストックになるのである。
第2は、フローの蓄積で形成したストックの価値を最大化するうえで、評価損益を考えることの重要性である。今の日本に置き換えれば、黒字を稼いで蓄積した資産の価値を、資産価格の下落で失っては、何のための黒字かわからない。GDP比6割に及ぶ対外純資産国である日本が、どのように対外資産、対外負債を運用すべきかについて考える機会を提供している。
第3は、ナイーブな米国衰退論に振り回されずに、米国や中国などの超大国とどのような距離感をもってつきあうべきかについて考えるヒントを与えている。
このように米国の将来だけでなく、難題を抱える日本の将来を考えるうえでも示唆に富んでいる。研究書ではあるが、学生から社会人まで、幅広い層に薦めたい書である。