将棋の戦法は常に進化している。いま最善手だと思われているものが、数年後には陳腐化した定跡になる可能性もある。新手への対策を考えて対局に臨むのも1つの方法だが、羽生はあえて新手を創造する側にスタンスを構える。「(対策ばかりを)棋士全員が考え始めたら、考える楽しみもなくなるしハッとするような手も少なくなる」。そして、創造力を高めるのに気を配るのが、体力と気力の充実、情報の選択と判断、感性を磨く、の3点だという。
天才なればこそ言える言葉かもしれない。しかし、行間からうかがえる彼の人物像はきわめて一般のそれに近く、その発言はシンプルで論理的である。本書を羽生個人への関心からひも解くのも1つの読み方だろう。しかし、次代を切り開く創造性が求められているのは、むしろ変化の渦中で混沌とするビジネス界の方だろう。とすれば、羽生の創造的思考法を生み出すヒントやアイデアが満載されているこの本は、出口の見えないビジネスパーソンにこそ読まれるべきといったら言い過ぎだろうか。(江田憲治) --このテキストは、絶版本またはこのタイトルには設定されていない版型に関連付けられています。
勝者は、複雑なものの考え方をしない! 本書は、天才・羽生善治の思考法則を、二宮清純、平尾誠二、金出武雄ら各界の第一人者たちとの対談によって明らかにしたものである。
”対局中は論理的に考えない。10手先のことを考えたり、休んだり、バラバラに考えたものを最後にまとめてから指す””情報は「選ぶ」より「捨てる」。この手はありえないと、瞬間的に消していく”――など、シンプルに考えることが勝負に勝つ直感を呼び覚ますという。
ビジネスの環境は常に変化している。にもかかわらず多くの人は、論理的思考の末に辿りついた考えや発想こそが、いい結果に結びつくと考えがちだ。しかし現実は、ギリギリの状況から生まれた直感の方が、いい結果を生み出すことも少なくない。要は追い詰められた状況を何度も経験して「勝負勘」を養い、従来の方法に捉われないやり方を導き出すことが大切なのである。
柔軟な発想をするための「頭脳教科書」である。
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こうして対談集を読み終えると、「創造力」に関して色んな表現方法があるものだ、と改めて感心します(ネタばれにならないように、本書の内容はここでは触れませんが)。ノーベル化学賞の田中さんの言葉を借りれば「常識をわきまえて、常識にとらわれない」というバランス感覚が重要なのです。寺田寅彦曰く「科学者は頭が悪いと同時に頭が良くないといけない」ということでもあります。当たり前に見えることを、当たり前のこととして簡単に済ますのでなく、「何故当たり前なんだろう?」と振り返る過程が、一見無駄なように見えて、実は重要なプロセスなのです。答えに至るまでの思考過程を自分なりにフォロー出来る力を養うこと、そしてそのような経験を積み重ねることが、次の新しい創造のために必要なのだ、と気付かされるのです。
このことは自然科学でも重要なプロセスです。例えば「夜空はなぜ暗いのか?」と聞かれて、そんなの当たり前じゃないか、で簡単に済ませていないでしょうか? 実はこれは歴史的に有名な問い(オルバースのパラドックス)で、正確に答えを出すのは大変なのです。そして、そこから出てくる答えのスケールの大きさに、驚かない人は居ません(続きは「夜空はなぜ暗い?―オルバースのパラドックスと宇宙論の変遷」(エドワード・ハリソン著)等をどうぞ)。「科学の歴史は一面から見れば間違いの歴史であるが、間違いがないと研究が進まない」(寺田寅彦)なのですが、これは科学に限らず、将棋の定跡でも同じことですね。
この対談集に興味を持たれたら、金出武雄先生の著書「素人のように考え、玄人として実行する―問題解決のメタ技術」もお薦めします。この本のタイトルのように、素人(=頭が悪い)と玄人(=頭が良い)を自分の中に共存させること、そのバランス感覚が重要なんだな、と羽生氏の対談集を読んで改めて気付かされます。
金出氏との対談は素晴らしい.著者校正を行っていないと思われる記述も少々残されているものの,内容自体は最高の頭脳を持つ両者が対談相手や読者のバックグランドを的確に意識したものとなっていて非常にわかりやすく,「単純に考えること」の奥の深さがよく伝わってくる.専門的な用語も少々出てくるが,大まかな意味の説明は対談の中でなされているので数学やコンピュータのアレルギーを持つ人でも問題無く読めると思う.
三つの対談別に星をつけると,一章(二宮)が二つ,二章(平尾)が三つ,三章(金出)が五つといったところ.一章と二章は羽生氏の話のうまさでもっているような感じがする.
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