「事実は小説よりも奇なり」、と言うが、この物語に生きる人間たちは、富士屋と言うホテルを中心として、小説の主人公さながら、いやそれ以上に波瀾万丈の生き様を見せてくれる。
世間的には「旅行作家」の方が通りが良い作者であるが、読み進む内に、主人公達が物語の中から蘇って来るようで、物書きとしての、山口由美の実力を見せ付けられるようである。
しかし、この物語りに血を通わせ、読者に感動を与えるのは、山口の富士屋に対する「愛」に他ならない。
エピローグで著者は語る。「夏の賑わいが去ったら、一人、静かに出かけてみよう。今度は取材でも、資料集めでも、何でもなく。ただ、富士屋ホテルの胸懐に抱かれるためだけに。」
感動のノンフィクション、お勧めの一品である。