もう圧倒されました。読後、しばらくはタクシーが自分の車の、前後左右に近づいてくると、「この運転手さんは大丈夫だよなあ~」と、その表情をそっとミラーで確かめたりしました。室田と川上、2人のタクシードライバーが醸しだす独特の雰囲気。ざらざらした、ひりひりした、暗いもの。滅亡なんて日常には似合わない言葉だけど、まさにその滅亡に向けてひた走る2人。妻との離婚、彼女の再婚に心を憔悴させる室田と、離婚して幼い娘を妻にわたしたものの、娘を一目見たさに埠頭公園に通う川上。2人は、箱崎ジャンクションを接点に近づきあい、絡み合い、やがて縺れあいながら“道連れ”という関係に嵌っていく。憂鬱などという簡単には言い表せない心理。もっとどす黒く動きのある心。タクシーという密室で、繰り広げられる果てしない独白と、カーチェイスさながらの室田と川上の交錯は、ラスト近く、高速道でのクラッシュ覚悟の猛スピードに集約されていく。怖いです。思いつめた人間の心のベクトルは。さんざん2人のそれに付き合わされて、読んだ後、本当にほっとしましたもの。蛇足ですが、今も時々私の頭に不意に“生天目(なまため)クリニック”という言葉が浮かんではぐるぐる回ります。