この分野では古典とされる一冊である。原著者のベルリオーズからリスト・ワーグナーを経て補筆者であるリヒャルト=シュトラウスへと続く巨大オーケストラの系譜を中心に、管弦楽の技法が、個々の楽器のバリエーションから奏法・使用上の注意点・集団としての用法に至るまで懇切丁寧に解説されている。掲載されている譜例も、説明している楽器のパートだけでなく場面に応じてスコア全体も表示するなど、オーケストラ全体の中での楽器の位置を鳥瞰的に捉える視点が貫かれていて感服した。
反面、内容が相当に偏っているのではないかという印象も受ける。特に、補筆者のR=シュトラウスが実際の用法の例として自身やワーグナーの作品ばかりを取り上げ、ブラームス・チャイコフスキー・ドヴォルザーク・ラヴェルといった同時代の名手たちの作品を全く採用していないのは問題だろう。巨大オーケストラの系列ではブルックナーがなぜか見当たらない。
オーケストレーションに神技を見せた両者だけあり、楽器の特性を知り尽くした解説はやはり参考になる。ただ、前述の通り基本的に大編成を前提とした内容のため、小さな編成や室内楽的な用法には必ずしも当てはまらないような記述も多い。例えば木管楽器のソロの響きは、大編成オーケストラの中では周囲の響きにかき消されてしまうかも知れないが、小さな編成の中であれば十分に輝くものだし、決してその魅力を軽視すべきでもないだろう。あと、これは純粋に個人的な感想だが、解説文の中でR=シュトラウスが心酔するワーグナーに寄せる「天才的な霊感」「これ以上見事な表現はありえない」といった大仰な賛辞が、私のようなアンチ=ワグネリアンには読んでいてかなり鬱陶しい。
確かに良書なのだが、一方で、かなり内容に偏りがあることも認識しておくべき本かと思う。逆に、その部分を取捨選択して読めるならば、非常に価値ある一冊であることは間違いない。