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かつて、芥川龍之介がその技巧を称賛した、短編小説の名手でもあるビアスの筆は、あらゆる物事の虚飾をはぎ取り、真の姿をさらけだす、まさに悪魔の筆である。その手にかかると、「弁護士」は「法律の抜け道を見つける熟練者」となり、「大臣」は「権限は大きく、責任は軽い役人」、「平和」は「ふたつの戦争の間にある、だましあいの時期」となる。「生命」にいたっては「肉体が腐らないよう保存している精神の漬け汁」と定義されてしまう。
ビアスの糾弾は、急速な工業化と経済発展を遂げていく南北戦争後のアメリカで、数々の不正や腐敗がはびこった「金メッキ時代」に向けられていた。にもかかわらず、その批判は現代社会に通じるものが多い。筒井の訳は、そんなビアスの文章に秘められた普遍性とおかしみを、平易な訳文と丹念な注釈をつけることで十分に引き出している。日米を代表する諷刺(ふうし)作家のコラボレーションともいえる本書は、筒井が語る「上質の諷刺は時代では風化しない」(『笑犬楼の知恵』より)という言葉をはっきりと証明するものである。(中島正敏)
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「筒井版・悪魔の辞典」と清流出版の本には百年の時差があるが、たとえば「ODA」に「発展途上国の自立と民主化のためというキャッチフレーズの下に政治家と財界筋が外務省を使って海外にカネをばらまき、税金を利益にして食い物にする国家レベルでの援助交際」とか、「文化勲章」に「他に抜きん出て文化に貢献したと評価された人に、日本政府が授与する年金つきの勲章であり、文明勲章が無いので日本では最高とされ、文化の日の園遊会の引き出物とされている勲章」という記述における迫力の差があるのだ。
日本語での表現はこのように捨てたものではないので、百年前のアメリカ人の発言を有難がって訳すより、自国語で新しい思想を生み出すことの方が、文化的に遥かに大きな貢献になるのではないかと痛感した。
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