絶対手が届くはずのない高嶺の花に寅さんがぞっこん惚れた挙句、見事にふられて去っていく、という展開は寅さんシリーズを見る大きな楽しみの一つですが、その典型といえるのが本作でしょう。 前作“寅次郎恋歌”のマドンナ池内淳子さんは、少し生活に疲れもおぼえはじめた三十路の後家さんで、決して“高嶺の花”とはいえない存在でしたが、今回のマドンナは吉永小百合さん。 まさに究極の高嶺の花です。 やはり見事なのがクライマックスの失恋場面で、感激の涙に打ち震えて幸福に浸っている吉永さんと、失恋の涙を必死でこらえている寅さんのうつむいた姿を同時に捕らえたショットなどは、まるで人間世界のあらゆる要素がここに凝縮されているかの如き名場面になりました。 本当の喜劇は悲劇から生まれるーというチャップリンの言葉をまさに体言している屈指の名シーンでしょう。
寅さんの永遠のマドンナといえばやはり浅岡ルリ子さん演じたリリーということになるのでしょうが、この吉永小百合さんも忘れがたい印象を残してくれたマドンナの一人だったと思います。 なにより、同じマドンナが再登場するというパターンを始めて作ったのが吉永さんでした。 第十三作“寅次郎恋やつれ”はこの作品の後日譚で、こちらもなかなかの佳作ですのでお見逃しなく。