初期の寅さんは傑作揃いだが、その一つの理由として、初代おいちゃん役の森川信の力があったと思う。渥美清と一対一でコメディアンとして渡り合えたのは、シリーズを通して森川さんだけだったと思う。その森川さんの最後の出演。松村達雄、下條正巳もそれぞれ味わいのある演技をするが、もう少し森川おいちゃんの活躍する姿を見たかった、というのが本音だ。
この映画を引き立てるのが、志村喬扮する博の父親。いわゆる「インテリと寅次郎」の一話だが、志村喬は合計三度シリーズに出演しており、寅さんにも愛情を注ぐ。志村喬はそんな父親を十分に演じ切る。というよりも、志村が存在するだけで画面が引き締まるような気もする。
備中高梁の景色も美しい。この後も32話(口笛を吹く寅次郎)でも見られるが、山間の小さな城下町。武家屋敷等古い街並みも残っている。寅さんシリーズではノスタルジックな街並みが度々登場するが、高梁は特別な存在感を持つように感じるのは私だけだろうか?
池内淳子のマドンナ(貴子さん)も性格造形が良くできていると思う。女の細腕で男の子を育てる、その苦労も良く出していた。そんな貴子さんを心配し、なんとか力になろうとする寅さんの心意気!
そして、基本的に旅の人であり放浪者である寅さんは、心のどこかで堅気の定住者の生活に憧れ、貴子さんはしがらみのない、旅の生活に憧れる。貴子さんの存在を通じて、寅さんの心の寂しさが一際強調されるような気がした。そして、ラストシーンに近い貴子さんの家のシーンは、寅さんが貴子さんに今の生活を大切にしてほしい…と思っていたように感じた。
芸達者が揃い、テーマも良い。寅さんシリーズの中でも大好きな映画。