松坂慶子、「浪速の恋の寅次郎」に次ぎ二度目のマドンナを演じるが、彼女が画面に出てくるだけで温かい雰囲気に包まれるような気がする。「浪速の恋」が初々しいマドンナなら、今度は「落ち着いた女性」が見られる。神戸で苦労して体調をこわし、島で静養する役どころ。
舞台は瀬戸内。就職活動がうまくいかない満男が逃避行した先は瀬戸内海の過疎の小島。かつては栄えたらしく、石段の中に結構立派な建物も見える。(山田洋次監督にはいくつかのお気に入りの土地があったと思うが、瀬戸内もその一つではないかと思う)
松坂慶子の父親役は新国劇の大物、島田正吾。彼の出演も見所の一つ。ハイカラだった老人の役を粋に演じる。
マドンナ(葉子さん)と寅さんとの金毘羅さん〜栗林公園のデートシーンが楽しい。
そして最も楽しいのは島での宴会のシーン。島の人たちが仲良く集い、島田正吾と松坂慶子の父娘がタンゴを踊るシーンは、シリーズ中屈指の温かなシーンだと思う。
ただ、こういうシーンは、瀬戸内の小島のような、現代の日本社会とはある意味隔絶した場所でないと描けないのかも知れないとも思った。
そしてこの映画を代表するセリフは、葉子が満男に対して寅を「冬の寒い日、お母さんがかじかんだ手をジーっと握ってくれた時のような、体の芯から温まるような温かさ」。この映画、寅さんシリーズ全体を表しているようにも思うし、山田監督が最も描きたいものの一つだったのではないかと思う。