タイトルからすれば、007を意識していると思うが、個人的には「二十四の瞳」へのオマージュの方を強く感じる。この二作後が38話「知床旅情」で黒澤監督へのオマージュだとすれば、この36話は木下恵介監督に捧げる意味合いもあったのだろうか?
タコ社長の娘、明美が失踪。寅さんが探しに行くが、ミイラ取りがミイラになって島へ。山田監督といえば、「愛の讃歌」(1967)の頃から島(や海)の風景を多用し、そのことで「故郷」や人間社会の絆を際立たせて描いているのではないか?
瀬戸内、長崎、沖縄・奄美のイメージが強いが、ここではあえて東京からそれほど離れていない式根島。これが微妙な距離感を出していると思う。瀬戸内等では現代社会のアクセクした感じから距離を置いた懐かしい故郷のユートピアだが、式根島だと郷愁を感じさせつつも、現代社会との距離の近さも感じる。
島へ向かう船の中で卒業生たちと親しくなり、そのまま同窓会へと出てしまう寅さん。現実に考えれば不自然かも知れないが、観ていてとても心地よい。自転車のシーンは木下監督の映画を思い出してジーンとしてしまった。
栗原小巻は第4作以来、二度目のマドンナ。前作はシリーズの草創期で、初々しくも、「笑いながらも感情がこみあげ、やがて悲しい想いがわきあがり、泣き始める」という難しいシーンも演じた。今回は大人のマドンナ。渥美寅さんと互角に演じ、お互いを理解できる素敵な女性として帰ってきた。
派手な盛り上がりがあるわけでもなく、寅さんは例の如く失恋してしまう。だが島の美しい風景、栗原マドンナの心とともに、自然な清々しさを感じさせてくれる佳作。