お馴染みの「とらや」を舞台とした登場人物面々と寅さんとの、人情をしっかり核にしたやりとりがおもしろおかしく、それにまたかなしい。
この映画を観ていると、その心を許した関係に起きる、ときにそれに甘えたり、我がままな馬鹿げたやりとりの中にも、その話につきあう僕らの情と心のありかを、ふと確かめたりしてしまうこともあるように感じる。
二十歳前後のころに劇場で観た「男はつらいよ」シリーズは、その頃もっとも脂の乗った「寅さん」でもあり、毎年「キネマ旬報」のベストテンに入るほどの出来映えでもあった。その頃「三本立て寅さん映画祭り」のような企画に通ったこともあった。
朝丘ルリ子が再登場のマドンナ二作目「相合い傘」は、シリーズの中でも、けっこうリアリティのある寅とマドンナとの関係性が、ヒリヒリするほど伝わる作品だ。やはりこの映画は、マドンナ役の力量と設定に大きなウエイトがあると改めて思いいたる。
また朝丘ルリ子という女優の巧さが、温美清のこなれた柔軟な演技と絶妙に絡み合っていて、他のシリーズに時々物足りないと感じさせるマドンナとの関係性の現実味に、しっかり重みを与えている。それゆえ、ふたりの別れはいつにもまして哀しい。
初期から中期の作品にこうして再会すると、まだ若くて元気な寅さんの迫力が、この映画の生命力そのものなのだと思われた。
温美清という人は、スクリーン以外の場面では穏やかな枯れた話し方をする人だったのが印象的だった。
ぼくが観たマドンナとして記憶に残る名作は、この朝丘ルリ子さん出演作、佐藤オリエさん出演作、それから逆求婚されそうだった寅の慌てぶりが、かなしくおかしい八千草薫さん出演作、人気シリーズ吉永小百合さん出演作、新人で抜擢、当時のアイドル榊原ルミさんの、無垢な瞳の演技で強い印象を与えた作品(寅次郎奮闘記?)・・当たりがなつかしく思い浮かぶ。