相変わらずの博覧強記振りと、通常この手のテーマでは、触れることが少ない資料に及んで、縦横に論を展開。主張に対する同意不同意は別にして、読んで損は無い本。本書の中核は、列伝体にあった、為政者に対する著者の「批評」がバックボーン。「批評」を通じて「歴史」のイメージを浮かび上がらせようと言うもの。個人的な好き嫌いから言うと、やはり主張が強い「歴史」ものとは、本書に限らず、網野善彦、ホイジンガ、ブローデルなど、どれも評判に比して作為的でつまらないことが多いが、本書も結論的にはそうだ。本書をスリリングにさせるのは、どこかしら大戦の残虐行為にまとわりつく「サド侯爵的な」変態・アングラ・暗黒文学の色調だが、それを、「事実」としてさらりと描くところが、本書の味付けか。チャーチルへの厳しい批判的な言辞は、チャーチルの「鬼才」振りを否定するには余りにも弱く(私もあんな黄禍論者は嫌いだが)、はっきりしない評価の軸が却って露呈している。第一次大戦を第二次大戦より重視すると言う主張自体は、欧州に住んだり長期滞在の経験者にとっては、「普通の」印象だし、NHKの「映像の20世紀」でも第一次大戦が、事実上の「19世紀の終焉」を齎したことは、映像ではっきり描いていたと思うし、思想界での同大戦の影響は喧しく語られていた。でも、それにも拘らず、本書では、第2次大戦が、前の大戦と異なり、本当の「世界大戦」であったことや、原爆・アウシュビッツ・強制労働等々の巨悪の点ではスケールが圧倒的に大きいこと、そして、第一次大戦には「戦後」が存在し、評価が定めやすいが、第2次大戦には輪郭線を決定する「戦後」自体が曖昧であることが等閑視されている。尤もらしく見せるのが「批評」の技で、その点柄谷行人や浅田彰の「錯覚」技術は、著者より上で、著者は正直すぎるように思える。