ミステリという定型の文学に対し、ひたすら揶揄と
ツッコミを行ってきたバークリーの代表作のひとつ。
本作では、
某超有名作と同じ趣向が採られていますが、それは、
あくまで手段に過ぎず、主眼となる目的は、本格ミステリの類型
(名探偵には卓越した推理力があり、警察は頑迷で無能、真犯人
はなぜか必ず意外な人物で……etc.)を洒落のめすことにあります。
そういった意味で、本作の大半を占める手記の執筆者であり、筆頭容疑者
でもあるピンカートンのキャラは、出色の出来といえるのではないでしょうか。
ピンカートンは過度に道徳的な性格で、その世慣れない言動が周囲の嘲笑の的になる
学者タイプの人物。彼は、自分の容疑を晴らすことを探偵であるシェリンガムに依頼する
のですが、なぜか他の関係者も有罪にならないように取り計らうことを要請したり、つい
には、彼のために罪を被ろうとした娘を庇うため、殺人の自白までします。
そうした、一見、支離滅裂な言動をするピンカートンの愛すべき人柄こそ
が、実は本作の真相を単なる悪ふざけに陥ることから救っているのです。
そして、もう一人、探偵役であるロジャー・シェリンガムも忘れてはならない
でしょう。彼は決して無能ではありませんが、“失敗”を宿命づけられた存在。
彼の華麗な“失敗”は皮肉の効いたもので、何とも哀れでもあるのです
が、彼以外に本作の事件を解決できなかったというのも、また事実です。
二人の愛すべき男たちを中心に奏でられる調子外れのシンフォニー――。
要するに本作は、フェアな犯人当てなどではなく、いかにもバークリー
らしい、アイロニーとブラックユーモアに満ちた犯罪コメディなのです。