深沢七郎は、風流夢譚事件や、いきなり曳船で今川焼屋を始めるなどの奇行
のゆえか、キワモノ作家と思われているふしがある。
とんでもない誤解であり、川端、三島、谷崎に匹敵する作家だった。
すくなくとも三島よりは遥かに上だった。
彼の代表作がこの作品だ。最高傑作は幾つかの短編だと思われるが、この作品には深沢のメイン・テーマが全て描かれていると思う。
また深沢というと人間滅亡教だが、それは思想家としての深沢であり、芸術家と
しての深沢は人間滅亡教よりも遥かに大きい。
この作品を読むと、いつも彼の愛犬のエピソードを思い出してしまう。
愛犬が出産時に死んでしまった時、彼は獣医に元気に産まれた仔犬を全部安楽死
させてくれと頼むのだ。母犬が死んでも子犬は育つと獣医がいくら説得しても、
深沢はワアワア泣きながら安楽死を頼み込むのだ。薄情ゆえではない。むしろ逆だ。
これが深沢七郎なのだとしか言いようが無い感受性である。