ちょうど昭和初期の街の雰囲気を実際にご存じの年配の方が多い、ということに、数回映画館へ行くうちに気付きました。
自分の歳で数えても、生まれる二三十年前が昭和15年。この物語の設定された年の意外なほどの近さと、にも拘らず現在の日常と検閲が普通だった日常との遠さを、考えるともなく感じさせる。ストーリー展開のスピードだけを重視すれば「冗長だ」との批判も出るであろう演出は、しかしこの点では逆に非常に効いています。ストーリー展開の外の街の、大きくは世界の‘空気に囲まれた感じ’までを作り込めることは、逆に舞台にはない映画の醍醐味でしょう。
監督の星護(ほし・まもる)さんの几帳面さと、声質の良さ・背筋の伸び・演技というものの本質を掴んでいる揺るぎなさを遺憾なく発揮する名優役所さんと、この役に関しては意外なほどその生まれ持った素材感を生かし・役所さんという職人に上手に沿いかつ要所では反ってもいる稲垣さん。不思議な取り合わせではあるのにどの一辺も突き出ない綺麗な三角形を形づくっています。
コメディであるとか、笑って泣ける人情ものであるとか、三谷幸喜の決意表明ものであるとか、様々に言われるどのコメントも、この作品の一部であり同時にどれも少し違う。括る必要はなく、笑おうとも泣こうとも感動しようとも思わずに、ひたすらフラットに向かって正解です。何が残るかは人それぞれ。劇中役所さんの「笑いというのは、人それぞれですから」はそのまま、この作品の感想に重なります。
数カ所、ほんとにどの映画館でも、主に冒頭の年配の方々だけが必ず笑ったところがあります。そうか、このネタってある時代の日本人にとって例外なく笑った懐かしいものなんだ、とこちらまで暖かくなりました。そういうことをしっかり台詞にする三谷さんに、‘笑い’なるものへの、伝統までを含めての愛を感じました。
いい映画ですよ。これは人間普遍の物語です。