難解というのももちろんありますが、とにかく長いピンチョンの著作にあって、例外的な分量と取っつきやすさを持って鳴る「競売ナンバー49の叫び」です。詳細な「解注」が付されていることもあって、ピンチョン入門にうってつけだと思います。もう20数年前にかのサンリオ文庫で出されたのを読んだのが最初で、当時買ったその文庫には、「解注」で触れられている箇所にマーカーで線が付けられており、それを目にする度に苦戦した大学時代の記憶がよみがえります。ところで、今回、この文庫化で初めて本書を手にされる方は、一見とかく詳細に過ぎるように見える「解注」に面食らうかもしれませんが、実は「解注」は本作の基調や読み方を読者に知らしめ、ピンチョンの世界にソフト・ランディングしてもらおうとの訳者、苦肉の一策であって、後半になるほどに量質ともに収まってきますので、100頁あたりまでは鳴らぬ堪忍で頑張りましょう。僕個人は、まず一度栞を二つ使って本文と「解注」を行きつ戻りつもたもた読んだ後、間を置かずもう一度読むようにしています。二度目は取るに足らない固有名詞の説明などが頭に入っていますのでほとんど「解注」を確かめることもなく、この作品の有する感傷的な部分まで愉しむことができるように思います。また、今回の文庫化はそのサンリオからのものではなく、その後ちくまから出された「殺すも生かすもウィーンでは」を収録した単行本の文庫化であり、訳者によるあとがきでは、サンリオ文庫閉鎖の余波で原稿料が出なかった等の、およそピンチョンの壮大な作品世界に似つかわしくない後日談を知ることもでき笑えるのですが、これもまた、意外に下世話なピンチョンっぽいと言えば言えるかもと変に納得させられもしたのでした。