古学を標榜した江戸時代の思想家、伊藤仁斎が童子からの問答に応えるという形式で自らの学びを示した著書。全体は上中下巻に分かれ、上巻は全五十九章、中巻は全七十七章、下巻は全五十三章、巻末には小見出しの付いた総目次と、校注者による解説を付している。
基本的に「論語」と「孟子」の意義に拠って人倫日用から儒学の教えを実践躬行することの重要さを述べていて、朱子学や、あるいは仏教・老荘の形而上学的な論議には価値を見出すことが少ない内容だ。巧言令色鮮し仁、剛毅木訥仁に近しというのをふと思い出すが、別に形而上学自体を否定しているわけでは全くないのは当然で、その思想を人倫日用の途に貫いていけないのなら意味がなく、高邁な思想を抱く一方で身や心が人倫日用の道から外れてしまっても同じく意味がないということをいっているのだと読めた。
何かうまい事を言い募れば何かをなしえたと思えるのが言葉の魔力で、その魔に魅入られると例えばここで批判されているような宋儒の物言いになる、という一方で、著者はここで、何事か上手く言うことが重要なのではなく、何事か思いつき、抱き、口にした言葉を実際に生き抜いて受肉させることこそが一生の一大事なのだと示しているのだと読んだ。一つの言葉を十年二十年かけて自分の身で響かせること。文なす美辞麗句・歌舞音曲より、身を晒して人倫の中で義を貫き仁を目指すこと。二十八歳の頃から十年に渉り大病を患った後に初めて開陳されたというその思想には、なぜか親近感が湧く。
非常に親しめる内容だった。今度は荻生徂徠が気になってきた。