黒木和雄監督が亡くなった。土本典昭、小川紳介、田原総一朗、東陽一等と共に岩波映画出身で、終始独立プロの低予算枠で良心作を撮り続け、晩年は戦時下3部作で、老いてますます社会派監督としての健在ぶりを見せていた。ただ、個人的には20代に名画座まで追いかけて観た、いまだその繊細で美しい映像が鮮烈なデビュー作の「とべない沈黙」から「原子力戦争」までのATG映画群が、やはり印象深い。なかでも、今作は、黒木が、新宿ゴールデン街の飲み仲間たちと、どうしても製作したいと切願し、多額の負債を抱えながら完成にこぎつけた渾身作で、最高傑作と言って良い。モノクロスタンダードのフレームの中、原田芳雄、石橋蓮司、中川梨絵、桃井かおり、外波山史明、松田優作らが、幕末の喧騒期に、ぎらぎらと人間臭く、熱く浪漫を語り、自堕落にセックスに興じ、倒幕の路線の相違と友情の板ばさみで苦悩する。60年代より蜷川幸雄と同伴して小演劇の世界で活躍していた清水邦夫の脚本が見事で、“早すぎた革命家”坂本竜馬と中岡慎太郎のふたりが、“仮に革命を成功させ、現権力を倒しても、所詮、次の権力が生まれ、移行するだけなのだ”と懐疑諦感してしまうのは、70年半ば当時の黒木たちの気分を代弁しているかのようだ。