ホラー色の濃いデビュー作「夜市」の印象が強い作者ですが前作、
南の子供が夜いくところでは単に「恐怖」にとどまらない、よりスケールの大きな物語世界が提示されておりました。
全5編から成る本作も「奇妙な話」揃いですが、その魅力を伝えるのは中々難しい。
「ホラー色」は影を潜めており(少なくとも表面的には)、むしろ「奇想小説」とでも読んだ方が相応しいのかもしれません。
しかし、我々の常識に基づいた世界にぽっかりと穴を穿つような事象が紛れ込んでくる様と、そこに生じる「ズレ」から仄見える別世界からあふれ出るのはやはり「怪」ですね。
ただし、それは生理的嫌悪を催させるようなものではなく、例えば「暗闇」に対して感じる自然な恐れに似たものである点が興味深い。
とは言え、これで力がなければ只の「奇妙な話」で終わってしまうのでしょうが、さすがに筆者の筆力は明らかですね。
例えば冒頭の「風を放つ」という物語だが、これほとんど「何も起こらないお話」と言っていい。
にも関わらず読み進めるうちに、顔も知らぬある女性が持っているという「悪い風を閉じ込めたガラス瓶」の不穏な気配がありありと迫って来ます。
こうしたビビッドな描写がやはり群を抜いて巧い。
個人的にはやはり後半の2編がおススメ。
「鸚鵡(オウム)幻想曲」は「擬装集合体の解放」というあのコンセプトだけでお釣りが来ると思うのだがそこから「南の子供・・・」に繋がるような南洋幻想談にまで持って行く腕力はお見それしました。
ラストの「ゴロンゴ」は打って変わって直球の展開。
ある伝説上の生物の誕生〜成長、そして旅立ちを追う物語は大自然の息吹の中で不思議と「リアルな幻想談」といった趣があり、やはり読み終わって残る豊饒なるものの気配がちゃんとあります。
奇想・幻想をグッと身近に感じさせる物語には独特の味が確立されており、今後ますます楽しみになりました。