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単なる現代語訳ではありません。平安時代という歴史的背景、ともに展開される美しい四季をそれはそれは細やかに、それ以上に細やかで緻密に描かれているのが人の心。源氏という男の<愛す/愛される>あるいは<愛せない>という根源的な苦悩が心理小説のように丁寧に描かれています(だから確かに量は多いし、すらすらとは読めないけれど)。だってこれ読んで誰に一番シンパシーを感じたかって、当の源氏にですもの。
「恨まなければならないほど、この身に縋りつくだけのいちいちを愛してはいない」(源氏のイメージ、変わりませんか?)
さらに宇治十帖では源氏は亡くなってるわけですから、紫式部が語るのですが、この流れがすごい。男の物語を経て、いつの間にか浮舟と紫式部が一体となって、一千年の時を超え私たちに語りかける女のメッセージ。千年の時間の中で、その身を燻らせ現れた源氏という男の「色」、『源氏物語』という物語の「色」は、『窯変源氏物語』でしか見ることはできないと思います。
装丁も綺麗ですね。ところどころに外国人をモデルにした写真がはさまれていたり、見出しにフランス語で一言入れられていたり。一帖ごとに、登場人物の人間関係の図が書かれているのも、大変ありがたいです。
橋本治は純粋な現代語訳ではなく、意訳、そして紫式部からは語られなかった部分もこの作品に入れています。日本語だけを使って、カタカナではなく、漢字とひらがなだけを使って、この大作を書き上げています。
日本語はなんと鮮やかで、きらびやかで、華麗で、豪華で、慎ましく、優しく、美しい言葉なのだろう、と思いました。
世界の公用語は米語となりつつありますが、私たちが日々紡ぐ日本語の可能性は、はかりしえないものであることを思い至らしめられました。
最近「美しい日本語」がブームのようですが、ハウツー本ではなく、この孤独な一人の男が紡ぎだした、この美しい「日本語の本」を読んでみて下さい。大作で大変ですけれど、それに報われることは保証します。
中に挟まれたモノクロの外国人のモデルさんの写真が綺麗。
表面的な事だけを見るとそんな感じですね。
では、中身を見てみると……。
後に出版された『源氏供養』を読んでも思った事ですが、源氏物語が生まれてからこの方、沢山の訳者さんがいらっしゃいましたけれども、本当の意味で『源氏物語』を理解し、私に理解させたのは橋本治だけではないかと思います。
それくらいリアルに物語の中に入っていける。
光源氏の息が感じられる。
ただ古典をなぞった話ではなく、それを踏まえつつ全く新しい話としてまさに『窯変』させた物語です。
言葉遣いも口語で読み易い。
私はリアルタイムで出版されていた高校生の時に、図書館に購入希望を出して読みました(学生には高い買い物でしたので…)。
丁度古典の授業で源氏物語をやっていたのでかなり助かりました。
話の粗筋は知っていたのですが、古文を読んでもその訳文を読んでも「誰が何をどうしたいのか」が婉曲な表現で煙に巻かれ、今ひとつ雰囲気が掴めなかったのに、この本を読めば一目瞭然。
橋本治、この時代に生きてたんじゃないの?と思うくらい。
本当に天与の才だと思います。
妖しいお話が好きな方にもオススメ。
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