ノンフィクションの価値は切り口で左右されるといえるが,本書が持つ切り口ほど鮮やかなものはなかなか見当たらない.通常,広島-原爆とくれば情緒的に悲惨を語り,反戦平和を煽るものになりがちだが,本書では「理系の職場」である気象台を通して,あくまでも理知的な語り口で(科学的技術的観点を中心にして)原爆投下当時の広島の状況を叙述するという,敢えて言えば奇想天外な方法を採っている.それでいてそこには明示的ではなくとも確固とした人間の物語も描かれている.これは自分のようなテクノロジー系の人間に平和の尊さを語るには非常に説得力がある方法ではないだろうか.それにしても,「ガン回廊の朝」でもそうだが,実際に聞いたことがあるはずも無い会話を創作・再構成する柳田邦男の技量はたいしたものだと思う.