世に真言密教や空海に関する解説書は数多い。とても原典には手がとどかないと思っているのがふつうだろう。
ところが、である。この値段で空海のなまの語りにたっぷり触れることができるのだから、これは岩波文庫のお株を奪う、出版界における快挙といっていいだろう。
従来、解説書では著者が空海と前提を共有してしまっていて(実際、学者兼真言宗徒が多い)、読者はおいてけぼりにされ、かえって訳がわからなくなることが多かった。ふーん、そういうものか、という感じである。この点、原典読書は、自分で考えることができるから、疲れるけれど意味がある。お勧めの1冊である。(ただし、自分の能力不足のせいかと思うが、訳なのか解説なのか、読んでいてわからなくなる時があって混乱したことを告白する。とくに“即身成仏”にかんしては『空海 塔のコスモロジー』〈武澤秀一著/春秋社〉が具体物を介してなのでわかりがいい)
ところで、興味深いことに気がついた(内緒で開陳しよう)。
訳注者が「生きとし生けるもの」と訳しているところを、巻末で解説者が「一切の生物と非生物」とそれとなくいいかえているのだ。監修者は解説まで監修はしないだろうから(?)、多分訳注者と同じ見解だろう。
ここは解釈の大きな違いである。訳注者・監修者は自身の日本人的生命感にひたっているのか? 解説者が非日本的なのか? いや、日本的か否か、という以前に、基本認識として重要なポイントである。実際のところ、空海自身はどう考えていたのか? 考え出すと夜も眠れない…、おーい、ちゃんとした解説書はどこだ〜?