空海の著作で文庫として気軽に読める形で現代語訳されたものは、実はあまり多くない。
元々言っていることが難しいからということもあろうし、空海自身も主張したように頭による理解に頼るのは密教の本来の形に反するという前提もあって、真言宗諸派が空海の著作の現代語訳に特に熱心でなかったということもあるだろう。
従って、般若心経のような日本人に多分一番良く知られた経を空海がどの様に読み解いたかを、現代語訳で知ることが出来る本書は非常に価値がある。
★4つとしたのは、本書が般若心経の一般的解説書として読むにはいささか問題があることによる。
弘法大師は知る人ぞ知る有名な僧侶であるが、その思想は真言密教に立脚しており、当然本書に記された般若心経理解も真言密教というフィルターがかかることが避けられないのである。特に後半に出てくる陀羅尼の部分は、性格的に密教的にならざるを得ない。
よって、単純に般若心経という経の思想を知りたいと思うのであれば、この本だけで理解しようとすると理解が偏ると言って良い。
他の立場にある人の書いた解説なども合わせて読まれると、般若心経が日本人にいかに理解され、また多様な立場をもって触れらてきたかを知ることが出来るだろう。