“ダッチワイフが心を持つ”、これは極めてキワモノ的なシチュエーションを逆手に取っての、愛しみと切なさで彩られた儚くて残酷な大人の寓話にして、詩情的でピュアなメルヘンの傑作。
慰めモノとしての彼女が、生を宿した悦びと、にも拘わらず、持ってはいけない心を持ってしまったと自問し、決して誰とも分かち合えない絶望的な孤独感。
ペ・ドゥナが素晴らしい。彼女が劇中2回に渡って見せる破顔一笑。ひとつは、デパートの化粧品売り場で美容部員からビニルの継ぎ目をファンデーションで消して貰った時の、もうひとつは、高橋昌也扮する老人に手を握られながら、手が冷たい人は心が温かいと言われた時の。どちらも何気ないシーンだけど、数少ない彼女の幸福感を現わす良いシーンだ。
彼女の息遣いが、人間の住む街の営みと同化され、更に無為な日常を過ごしている人たちに、一抹の生きる事への充足感を与えてくれる様な、一種神秘的で透明感あるファンタジー的側面も活きている。
そして、観る者だれもが、彼女の行く末を案じながらも予想できる、残酷に、唐突に訪れる幕切れ。最期に彼女の眼に映った人間世界の風景は果たしてどんなものであったのか。
彼女の心象と同化したような、O.S.Tによるメイン・テーマも、観終わった後の余韻と残照感を感じさせる。
一部で演出過剰、計算高いとの声もあるようだが、この題材を映像化しようと思ったら、演出する者のコンセプトは限定されるんじゃないか。
是枝監督のアプローチを称賛します。