「空想」によって、ホームズ、ポアロ、マープルなどいろいろな探偵を呼び出せる少女瑠雫。強烈な設定なので、これにひかれて読み始めました。
女優の密室殺人事件にからむのは、彼女と親しかった瑠雫、大学の仲間たち、女優の夫である准教授、主人公であるらしい宇津木勇真、と、最初からかなりしぼりこまれた面子です。
初めは、瑠雫のこの「空想」を唯一、見る(共有する)ことのできる勇真が、二人三脚で謎を解いてゆくのかと思わせられました。しかし,彼女が呼び出せるのは、彼女の才能の範囲の探偵像らしく、この「空想」探偵たちは神のような明察を発揮するほどではありません。そこに瑠雫の父である刑事の雨崎が登場。奇妙に白々しい関係のこの親娘と勇真のトリオがおもに謎を解いてゆくことに。
第二の殺人のあたりから、ばたばたと謎が解けはじめます。終わり100ページあたりからの展開は、ページに目が釘付けになります。
殺人じたいが、見立てをはらんでいたり、「童話」がキイになっていたり、とさまざまな様相を呈してくるのと同時に、ちょっと奇矯な女の子に思えていた瑠雫の傷ついたいじらしい心と、彼女自身のトラウマになった事件がひっぱりだされ、それには父親も、そして勇真も、深くかかわっていました。
こうした複雑なキャラの絡みの中で、事件の謎は二転三転、解けたかと思うと、すぐに覆され、別の仮説に取って代わられ・・・最初はささいなことかと思われた女優本人の野望が動機のひとつで、事件はもっと大きな波紋を起こすべくセットされていて・・・
物理トリック、時間のトリックも、見事に解けます。そしてあとに残るのは、事件の当事者の深い思いと、探偵役たちのもっと大きなやるせない思いでした。
そしてこの余韻は「空想」と切り離せません。
この「空想」について作者は、同視性症候群ともっともらしく説明していますが、ギミックと見えたこの設定には、大きな伏線が仕込まれていて、最後にあっと驚かされました。(最初読み出したときは、心理学でいう「見えない友達」現象だと思っていたのです。)
語り口も節ごとに、視点人物がすっすっと入れ替わる不思議な設定で、まさに、無数の面をもった複雑な多面体のような「ミステリ」でした。シリーズにはしにくいかと思いますが、主人公たちのその後を知りたい気持ちです。