爽やかな印象の表紙イラスト。だが、数ページ読めば、大変な生活を強いられている
主人公「零」の境遇に唖然とさせられる。
零が6歳からおよそ14〜15年の時間を、久保寺さんは見事に成長小説に
仕立て上げた。
いわゆるホームレスの父が死に、その後は児童擁護施設から逃げ出し、
相棒のセイ(犬)とともにストリートチルドレンとして暮らすこととなる。
天蓋孤独。
それは自由どころか、明日という日を迎えるためには
あらゆるリスクを回避せねばならない、束縛に満ちた生活だった。
放浪。孤独。サバイバルといっていい生活。
そのなかで生き延びるためには、零という少年は経験則に秀でた子どもでなければ
ならなかったのだ。
そして、人はひとりでは生きていけないということも、きちんと絡めて
零が出会う人々から紡がれる確かな縁を、久保寺さんは描ききる。
そのためには、セイとの「絆」を揺るぎないものにするだけの時間を描く必要があった
ともいえよう。
ホストからダンサーへ。失敗も繰り返しつつ、人と人の間で生きる術を
ひとつひとつ学んでいく零。
ほとんどの人が「家庭」のなかで習得するはずのことを、
零は外の世界で学ばねばならなかった。
リョウ、リカさん、水島さん……。近づいて縁を結んだ人と誠実に絆を契る零の
健気さが胸を打つ。
成長とともに訪れる思春期の変調も、零版「ヰタ・セクスアリス」として描き込んで
しかも零の真面目さが笑いさえ誘う。
後半になるにつれ、話の整合性を繕うためか、多少書き手の都合の優先が
ちらちらするが、リカさんの潔さが終盤に向けての緊張感を高める。
野生児同然だった零が、この世で、人のなかで生きてゆく覚悟を持ったことが
嬉しかった。
「愛」ということばを覚えたからこそ。