『空とぶじゅうたん 1』、『空とぶじゅうたん 2』は、1996年に日本ヴォーグ社より刊行された同名書籍『空とぶじゅうたん』を定本に2006年10月にブッキングより復刊された絵本です。 判型、装丁デザインを一新し2冊に分冊して刊行。復刊にあたっては、ストーリーはそのままでテキストの全面的な改稿がなされました。
『青いチューリップ』にて2005年度第38回日本児童文学者協会新人賞を受賞した作者・新藤悦子氏の力量が感じられるリライトです。また、全ページフルカラーとして、より美しい絵本として蘇りました。
『空とぶじゅうたん』(1・2)は、トルコやイランに残る言い伝えをもとに、新藤悦子氏のたぐい稀な創造力で織り上げられた愛と幻想の物語。 『空とぶじゅうたん1』には、「糸は翼になって」、 「消えたシャフメラーン」 、「砂漠をおよぐ魚 」の三篇が、『空とぶじゅうたん2』には、「ざくろの恋 」と「イスリムのながい旅」の二篇の物語が収められています。
津田塾大学で中近東ゼミを終えた新藤悦子氏は、トルコに渡って現地に留まり絨毯を織り続けました。その日々を初の書き下ろしとして『エツコとハリメ 二人で織ったトルコ絨毯の物語』(情報センター出版局)に綴りました。その後も中近東各地の旅を続け、『羊飼いの口笛が聴こえる』(朝日新聞社)、『チャドルの下から見たホメニイの国』(新潮社)、『イスタンブールの目』(主婦の友社)や『トルコ風の旅』(東京書籍)など自ら撮った写真を添え水際だったルポやエッセイを書いています。
『空とぶじゅうたん』(1・2)は、実際にトルコに留まり絨毯を織り上げ、中近東各地を旅した作者だからこそ綴ることのできる渾身の物語です。言葉の一つ一つに作者の息遣いと中近東への愛が感じられる貴重な一冊だと思います。
中近東は今や、紛争の絶えない地域です。過酷な環境の中で絨毯を織り続けている女性たちに思いを馳せます。梨木香歩さんの小説『からくりからくさ』(新潮文庫)の登場人物で、紀久さんというキリムを織っている女性の手紙の中に、「日本の織物である紬も中近東のキリムも、女達のマグマのような思いをとんとんからりとなだめなだめ、静かな日常に紡いでゆく営み」というくだりがありますが、抑圧された環境の中で、マグマのような思いを沈めるように、絨毯を織り続ける女性たちの精神が、『空とぶじゅうたん』(1・2)の物語の中に満ちていることを感じました。子どもたちにも、大人の私たちにも、文化や芸術は人の痛みを通して、脈々と受け継がれていくものだということをさりげなく教えてくれるすばらしい物語絵本です。
絨毯を織る女性たちの他にも、ひとつだけ、砂漠を旅する女性の物語がありますが、やはり抑圧された環境の中で、前向きに生きようとする女性の極限の美が描かれています。5つの物語には、作者が中近東で出会った女性たちへの密かなエールが込められているのではないでしょうか。
2冊の絵本を手にとって開いてみてください。絨毯にまつわる5つの物語に、こみねゆら氏のすばらしいイラストが添えられています。 各ページを囲む絨毯のイラストは、絨毯を織り上げている一本一本の糸をたどるかのように繊細に描かれています。ページを開くたびに、まるで自分が絨毯に座っているかのような感触を覚えます。丹精をこめて描かれたイラストが、読者であるあなたを物語の世界に深く誘います。
児童文学の分野で大きな業績を残した瀬田貞二氏が『絵本論』の中で「絵本は、子どもが最初に出会う本です。長い読書生活を通じてひとの読む本のうちで、いちばんたいせつな本です。・・・だから、絵本こそ、力をつくし、もっとも美しい本にしなければなりません。」と提言していますが、『空とぶじゅうたん』(1・2)は、まさに瀬田氏の提言にかなう「もっとも美しい絵本」の一冊ではないかと思います。復刊に携わったブッキングのスタッフのお一人お一人がそれぞれの力をつくし、蘇った絵本ではないでしょうか。
近年稀に見る美しい絵本として、大人のあたなへも、また、お子さんへの読みきかせの絵本としても、力をつくしてお薦めします。