まさに歴史を変えた名著の新訳版。一文が長くて分かり難い原文を直訳していた従来訳に比べ、生物科学の知識に基づいて原文を簡潔に区切って提示した訳者の力量により、その真価が明快に読み手に伝わって来る。下巻は全14章の内、第8章「雑種形成」から。
下巻では、自説に対して予想される反論への理論武装を予め行なっているように映った。ダーウィンは「原種→発端種→亜種→別の種」という連続的変化を考えていたから、その過程に中間種とも呼ぶべき物が存在していた筈である。また、変異は個体レベルで起こると考えていたから、原種と中間種との間の交配性(稔性)が零だとすると、進化は途絶えてしまう。逆に100%だとすると"種の分化"の概念が曖昧となるだけでなく、無数に存在していた筈の中間種の化石が残っていない理由の説明が必要となる。このため、「雑種の稔性」及び「地質学的証拠の不完全」を綿密に論じたものだろう。ダーウィンの周到性を感じると共に、グールド流の「断続」進化説の登場を予見していたとさえ思える。第10章では「地質学的変遷」に伴って、種の進化と絶滅が緩慢に起きる事、優勢な種ほど多数の新変種を生み出す事が改めて強調され、これが自然淘汰説を支持するものとする。第11,12章では種の地理的分布を考慮に入れながら、「種の創造は地球上の一地点でなされた」という重要な主張(その種が一組の共通祖先を持つ事とは別の意)がなされる。創造説への批判でもある。第13章では、「変異」と「自然淘汰」を基に生物相互の階層関係・系統性が論じられる。最終章は全体の要約である。
生存闘争、自然淘汰と言った新概念を打ち出した上巻に比べ地味に感じられる下巻だが、自説の補強のための論が今日的問題に繋がっている辺り、むしろ読み応えがあるとも言える。後世に大きな影響を与えた、まさに記念碑的著作である事を改めて感じた。